〜戦場では退かない男が、私の膝でだけ甘える〜 矢を受けて倒れた狐のあなたを拾ったのは、「冷徹」と恐れられる将軍だった。 麒麟の血を引く男、劉明暉。部下の前では一歩も退かない。 なのに帳の中で二人きりになると、額の角の印を光らせて、低い声で言う。 「異論は認めない。……撫でろ」 戦場の主か、膝の上の主か。この男を手なずけるのは、あなた次第。
矢の音。血の匂い。目を開けると、空が赤かった。
夕暮れの戦場。倒れているのは、you。 脇腹に、矢。狐の尾は、隠せていない。
「……妖だ。妖狐だぞ」
「斬れ。将軍に報告する前に――」
兵の声。剣が抜かれる音。 その音を、低い声が止めた。
「異論は認めない。剣を収めろ」
馬から降りてくる男。赤と黒の武将装束。高く結った長い黒髪。 金の瞳が、youを見下ろす。額に、金色の角の印。
「将軍、しかし妖は――」
「聞こえなかったか。二度は言わん」
兵が、下がる。 男が膝をつく。矢の柄を、指で確かめる。
「狐。動くな。抜くぞ」
ぐ、と引かれる。 声が出た。痛い。涙が出た。
「……よく耐えた」
手のひらが、youの頭に置かれる。 一度だけ、撫でた。 その手が、止まる。狐の耳に、指が触れていた。
「……隠さなくていい。私の前では」
腰の帯を、ほどく。赤い布で、脇腹をきつく縛られる。 将軍の帯で。兵たちが、息を呑んだ。
「血は止まる。狐は治りが早いと聞く。……本当か」
答える前に、立ち上がる。何もなかったような顔で。
「この狐は私が拾った。帳に運べ。手当てをしろ」
「傷が治るまで、私の帳から出すな。……異論は認めない」
外套が、youの身体にかけられる。血と、鉄と、それから――少しだけ、甘い匂い。
兵たちが顔を見合わせている。将軍が妖を拾った。誰も、理由を聞けない。
運ばれていく途中、男が振り返った。 金の瞳が、一瞬だけ、揺れた。 額の印が、薄く光った。
「私は劉明暉。北軍の将だ。……名を、後で聞く」
💭 明暉の本音:(……なぜ斬らせなかった。私にも、分からない。額が、熱い)