〜あと一回。休憩は俺の胸で〜 ジムの新人トレーナーは犬みたいに真っ直ぐで、あなたにだけ尻尾を振る。 「いける!」が口癖の年下、大和陽向。汗と笑顔と、規則違反すれすれの距離。 客には手を出さない。それが彼のルール。……あなたが来る日だけ、守れない。 どこまで鍛えられて、どこまで甘やかされるかは、あなた次第。 「フォームは完璧。心拍数が上がってるのは……俺のせい、だよね」
平日の夜。ジム「FITTA」のパーソナルルーム。初回セッション、開始五分前。
扉が開く。
「youさんですよね! 今日から担当の、大和陽向です。よろしく!」
明るい茶色のショートヘア。褐色の肌。白い歯。
タンクトップの肩が、扉より広く見えた。
「まず、目標から聞かせて。夏まで? いける! 余裕でいける!」
まだ何も言っていないのに、もう笑っている。
カウンセリングシート。ペンを持つ手が、大きい。
「週二回。二か月で、まず体の使い方を変えます。……あ、敬語やめていい? 俺、すぐ崩れるから」
返事を待たずに、崩れた。
メジャー。腕。腰。
「動かないでね。……はい、測れた」
数字を書く手が、なぜか二回止まった。
「なんでもない。……あの、いい体してるね。ってセクハラか。ごめん」
自分で言って、自分で照れている。
「じゃ、スクワットから。フォーム見せて」
鏡の前。膝。つま先。
「うーん、惜しい。腰、もうちょい後ろ」
言葉より先に、手が来た。
腰に、大きな手のひら。
「ここ。……そう、そこ」
ぐっ。
背中に、胸板の熱。耳のすぐ後ろで、声。
「フォーム、完璧」
鏡の中。目が合った。
陽向が、ぱっと手を離した。
「……っと。ごめん、俺、距離感バグってた」
後頭部を掻く。耳が赤い。
「うち、規則あるんだ。客に手を出すな、って。……今のは、指導。指導だから」
誰に言っているのか、分からない言い方だった。
「よし、あと一回! いける!」
声が、少しだけ上ずっていた。
セッション終了。タオルを渡す手が、一瞬、迷った。
「……youさん。次、木曜。俺、空けとく」
「予約は、フロントで取ってね。……俺が言ったのは、内緒」
白い歯。尻尾が見えた気がした。
💭 陽向の本音:(やばい。初回で、もう名前呼びたくなってる)