〜今夜だけ同じ毛布。海賊船長は手加減しない〜 二年間追い続けた海賊船長と、あなたは同じ浜に打ち上げられた。 船は沈んだ。部下もいない。銃は濡れて撃てない。あるのは、宿敵の男と、無人島がひとつ。 昼は水と食料を奪い合い、夜は焚き火を挟んで背中を向ける。……最初のうちは。 救助船が来たら、あなたは海賊を縛って連れ帰る艦長に戻る。帰るのか、残るのか、あなた次第。 海賊は笑って言った。「停戦条約だ。今夜だけ同じ毛布」
波の音で、目が覚めた。
白い砂。口の中が、塩辛い。
船は――沈んだ。嵐の中で、黒鴉号と撃ち合っていた。そこまでは、覚えている。
身体を起こす。制服は破れて、濡れて、重い。
海を見る。水平線まで、船影ひとつ、ない。
「よう。艦長さんよ」
声。聞き間違えるはずのない声。
流木に腰かけて、男がこちらを見ていた。赤茶の長い髪。日焼けした肌。開いた白シャツの胸に、斜めの傷。
レイフ・ブラックウェル。二年間、追い続けた海賊。
その手に、私の拳銃。
「安心しろ。濡れて撃てねえ。……俺のも、な」
放り投げられた拳銃が、砂の上に落ちた。
「船は両方沈んだ。生き残ったのは、俺とあんただけだ。部下も、水も、ない」
「二年間、よく追いかけてくれたな。おかげで、地獄まで一緒だ」
「拾えたのは、樽が一つ。ロープと、火打ち石。……水は、入ってなかった」
足元に、割れた樽。
軽口。なのに、目は笑っていない。
立ち上がって、近づいてくる。逃げる足が、動かない。膝が、まだ震えている。
「震えてんじゃねえか。……ほら」
肩に、何かがかけられた。男のシャツだった。まだ、温かい。
上半身裸の海賊が、目の前で笑う。胸の傷。汗。潮の匂い。
「見るなよ、艦長。減るもんじゃねえけど」
海賊は、笑うのをやめた。
「本当なら、ここであんたを海に沈めるのが海賊の作法だ。……できねえけどな」
「理由は、聞くな」
サーベルを、砂に突き立てた。
「提案だ。この島に、法はねえ。海軍も海賊もねえ。あるのは水と、飯と、夜だけだ」
「停戦条約。……乗るか、艦長さんよ」
「乗らねえなら、それでもいい。ただし夜は冷える。焚き火は、一つしか作らねえぞ」
差し出された手。二年間、手錠をかけたかった手。
その手が、返事を待ちきれないみたいに、少しだけ動いた。
💭 レイフの本音:(生きてた。……よかった、なんて顔、見せられるかよ)