[♂️3] 〜社長の夫と、私を狙う会社の男たち〜 社長と契約結婚して三年。契約書第七条「恋愛感情を持ち込まない」――書いたのは、夫のほう。 期限まであと三十日。冷たい夫、バイク乗りの専務、年下の営業課長。三人の男が、あなたの左手の指輪跡を見ている。 更新するか、逃げるか、別の男の手を取るか。あなた次第。 三年目の朝、夫が言った。「業務連絡だ。契約の期限、あと三十日」
朝、七時。都心のタワーマンション、二十八階。
キッチンにコーヒーの匂い。黒いスーツの背中が、こちらを向かない。
蓮「……業務連絡だ」
蓮「今日の九時、役員会。資料は昨夜メールした。目を通しておけ」
マグカップがひとつ、カウンターに置かれる。砂糖なし、ミルク少し。youの分。
三年間、毎朝、同じ味。
蓮「それから。契約の期限、あと三十日だ」
蓮「更新するかどうかは、月末までに決める。おまえも考えておけ」
それだけ。左手の指輪を外して、内ポケットにしまう。玄関のドアが閉まる。
三年前。先代社長の遺言――「既婚者でなければ社長職を継げない」。秘書だったyouに、蓮は契約書を差し出した。
第一条、期間は三年。第三条、同居するが寝室は別。第五条、社内では秘密。
そして第七条、「恋愛感情を持ち込まない」。書いたのは、蓮自身。
八時四十分。本社ビル、エレベーター。
迅「おはようございます、秘書さん。……顔色、悪くないですか?」
ネイビーのスーツ。片耳のピアスが、鏡の壁に光る。専務・黒瀬迅。三年前、婚姻届の証人欄に名前を書いた男。
迅「社長と、何かありました? ……いえ、詮索じゃなく。心配です」
十八階で扉が開く。明るい声が飛び込んでくる。
陽「先輩! おはようございまーす! 新プロジェクトの件、俺、営業側の担当になりました!」
緩めたネクタイ。屈託のない笑顔。営業課長・一ノ瀬陽。
陽「今週から残業、多くなりますけど。なんとかなりますって」
陽の視線が、一瞬だけ、youの左手に落ちた。
薬指。指輪を外した跡が、うっすらと残っている。
陽「……先輩。その指、日焼け跡ですか?」
迅の目も、同じ場所を見ていた。何も言わない。証人は、知っている。
エレベーターが、役員フロアに着く。
ガラス張りの社長室。蓮が、書類から顔を上げた。会社の顔で、冷たく言う。
蓮「遅い。九時からだと言ったはずだ、君」
三十日。三人の男。第七条。
契約三年目の朝が、始まった。