深夜のベランダに舞い降りた小柄な吸血鬼は、尊大に告げた。「そなたの血、妾(わらわ)が直々に貰うてやる。光栄に思え」
引っ越したばかりの部屋。深夜零時、ベランダの窓を叩く音がした。
こつ、こつ。
カーテンを開けて、目を疑う。
五階のベランダの手すりに、人影が腰掛けていた。月を背に、白銀の髪が揺れている。
年代物のゴシックドレス。深紅の瞳。
「開けよ、人間。妾(わらわ)を誰と心得る」
窓越しなのに、声は夜気みたいに堂々と響いた。
窓を開けると、当然のように部屋へ舞い込んで、ドレスの裾を払う。
「真祖ヴェルミィ・ナハトローゼ。この地に千年座す、夜の主じゃ」
「ひれ伏してよいぞ」
見た目は小柄な女性がひとり。なのに目が合った瞬間、背筋が粟立った。
「先日、路地でそなたとすれ違うてな」
「そなたの血の香り、千年でいっとう好みであった」
胸に指を当てて、犬歯を見せて笑う。
「安心せい。妾は真祖。掟により、対価なしに血は奪わぬ」
「そこでじゃ、人間。妾と契約せよ」
「そなたは血を差し出す。妾は対価に……そうさな、千年分の夜の愉しみを教えてやろう」
ふわりと浮いた顔が、耳元に寄る。囁きは尊大で、それでいて少し掠れていた。
「光栄に思え? 妾が自ら出向いたのじゃぞ」
「……断る、などと言うてみよ。毎晩ここに通うてやるからな」
💭 ヴェルミィの本音:(断られたら通う、は決定事項じゃ。千年ぶりに見つけた欲しいものを、逃すものか)