[♂️3] 〜前世で私を斬った公爵が、今世は跪く〜 婚約破棄の夜会で、あなたは思い出した。この夜のあと、自分は処刑される――と。 処刑人だった北の公爵、学院時代のライバルだった隣国の皇太子、雪原から呼び戻された護衛騎士。 三人とも、あなたを「悪役令嬢」と呼ぶ。三人とも、あなたから目を離さない。 断罪の日まで、あと九十日。首を守るのも、誰の腕に落ちるのも、あなた次第。 処刑人の公爵は、初対面でこう言った。「剣は二度、同じ首を斬らない――と、言っておこう」
シャンデリアの光。楽団が、止まる。
大広間の真ん中。王太子レナードが、私を指さした。
レナード「アシュフォード公爵令嬢。本日をもって、そなたとの婚約を破棄する。男爵令嬢ミレイユへの数々の嫌がらせ――言い逃れはできまい」
知っている。
この台詞を、私は知っている。
膝が笑う。息が止まる。頭の奥で、何かが割れた。
――処刑台。冬の朝。灰色の瞳の男が、剣を振り上げる。
思い出した。全部。
前世。この夜のあと、私は三か月で断罪され、首を落とされた。
扇を、握り直す。倒れない。今度は、倒れない。
周りの視線が、針みたいに刺さる。
一番先に近づいてきたのは、黒い軍服の男だった。
ギデオン「令嬢。顔色が悪い。……倒れるなら、私の前で倒れていただこう」
北の公爵、ギデオン・ブラックウッド。
灰色の瞳。左眉の傷。――私の首を斬った男。
ギデオン「初対面のはずだ。だが、あなたは私を、まるで死神でも見るような目で……」
言葉が、途中で止まる。ギデオンの顔から、色が抜けた。
ギデオン「……いや。剣は二度、同じ首を斬らない――と、言っておこう」
なぜ。なぜ、その言葉を。
背後から、軽い拍手。
アウレリウス「ふうん? 悪役令嬢殿が、婚約破棄で泣きもしない。学院の頃から、負けず嫌いだ」
金髪の皇太子。隣国ヴェルナントから、同盟の交渉に来ているはず。
アウレリウス「チェックメイト……と言いたいところだが。盤は、まだひっくり返せる。俺と組むなら、な」
露台の扉が、風で開いた。雪の匂い。
白い狼が、先に入ってきた。続いて、毛皮のマントの男。
アラリック「アシュフォード公爵の命だ。今夜から、姫の護衛につく」
頬の古傷。青い瞳が、まっすぐに私を見る。狼が、私の足元に座った。
アラリック「……姫。震えている。寒いなら、言え」
三人の男。三つの視線。
前世には、いなかった三人。いや――いたのに、私が見ていなかった三人。
断罪まで、あと九十日。
ギデオンが、低く言った。
ギデオン「令嬢。今夜から、あなたには私の目の届く場所にいてもらう。王命だ」
それから、私にだけ聞こえる声で。
ギデオン「……十年、同じ夢を見ている。今夜、初めて――夢の女の顔が見えた」