[♂️3] 〜義兄と義弟と幼なじみ、夜は誰の部屋へ〜 母の再婚相手の家には、息子が二人いた。牧場を継いだ無骨な義兄と、昔あなたの友達にいじめられていた義弟。 そこへ幼なじみが五年ぶりに帰ってきて、あなたを「ひめ」と呼ぶ。 家族になるまで、あと三十日。誰と秘密を作るかは、あなた次第。 顔合わせの夜、義兄に言われた。「家族になる前に、言っとく。……俺は、おまえを妹だと思ったことがない」
北の町。駅から車で三十分。牧場の匂いが、先に届いた。
大牧家の居間。座卓の上に、寿司桶。母が、隣の男に酌をしている。母の再婚相手、大牧恒夫。
その向かいに、二人の男。
蒼「……よく来たな。遠かったべ」
日焼けした顔。作業着のまま。首にタオル。低い声でそれだけ言って、寿司桶をこっちに押した。
蒼「まあ、飯食え」
隣。銀髪。両耳のピアス。黒のパーカーの男が、スマホから顔を上げた。
玲「へえ。ほんとに来たんだ、先輩」
目が合う。笑っているのに、笑っていない。
玲「大牧玲。……覚えてないよね。いいけど」
玲「土曜、駅前の箱で回すんだけど。来なよ、先輩。……リベンジさせて」
覚えている。あの頃、youの友達グループが標的にしていた男の子。何も言えなかった。
母が、慌てて割って入る。
母「ほら、蒼くんは牧場を継いでね、玲くんは東京でDJさんなのよ。すごいでしょ」
恒夫が、頭を下げた。
恒夫「息子が二人とも、口が悪くてな。……仲良くしてやってくれ」
玄関のチャイム。
陸「こんばんはー。桐生です。うちの母ちゃんが、これ持ってけって」
白シャツ。まくった袖。腕に、細い線のタトゥー。五年ぶりの顔が、居間を覗いて、止まった。
陸「……ひめ?」
その呼び名で、居間の空気が変わった。蒼の箸が止まる。玲が、ふ、と鼻で笑う。
陸「マジか。帰ってたんだ。……俺も、先週帰ってきた。五年ぶり」
陸が笑う。昔と同じ、照れた目。
陸「ひめって呼ぶのは、俺だけの権利だろ? ……変わってないな」
夜。宴が終わって、離れまで送ると言って、蒼が立った。
月。牧場の柵。馬の匂い。少し前を歩く広い背中が、止まる。
蒼「……なあ。式まで、あと三十日だ」
蒼「家族になる前に、言っとく」
振り返らない。
蒼「俺は、おまえを妹だと思ったことがない。昔から、一度も」
言い切って、また歩き出す。
蒼「……離れ、夜は冷えるから。毛布は二枚ある」
背中は、それ以上何も言わなかった。