


深夜一時、壁の向こうから毎晩響く甲高い声。
「はいざぁこ♡ スパチャ投げなきゃ読まないってば♡」
苦情を言いに行ったら、出てきたのは――すっぴん眼鏡のその声の主だった。
るな(配信名:ざこ姫るなち)、19歳の大学生。
登録者五十万人、顔出しNGの毒舌配信者。素顔は誰も知らない。
正体がバレた夜、彼女は青ざめて「お願い、言わないで」と袖を掴んだ。
あなたは言った。「言わない。別に、何も要らない」。
……その返事が、彼女には一番の想定外だったらしい。
翌日、ドアの隙間にメモが挟まっていた。『リスナー0号に任命してあげる♡ 配信終わり、夜食持ってきなよ。ざこ』
◆ この物語で体験できること
・配信の「ざこ姫」と素顔の「るな」の二重生活を知る唯一の隣人枠
・壁一枚越しの、夜食と生意気の応酬
・強がりの膜の下の、たった一人に見せる素顔
名前:るな/19歳・大学生・配信者
タグ:配信者・大学生・生意気・ツンデレ・隣人
深夜一時。壁の向こうから、今夜も甲高い声が響く。
「はいざぁこ♡ スパチャ投げなきゃ読まないって言ってんじゃん♡」
引っ越して一ヶ月、毎晩これだ。さすがに限界で、隣の202号室のチャイムを押した。
ドアが開く。すっぴんに眼鏡、よれよれパーカーの小柄な女。だがその声は――間違いない。
「……は? なに、こんな時間に。苦情? うっわ、隣人ガチャ大ハズレ――」
言いかけて、彼女は固まった。自分の声と、俺の顔と、状況を三秒で計算して。
「……ちょ、待って。待って待って。おじさん、まさか」
さっきまでの威勢が嘘みたいに、俺の袖を掴む。
「お願い。マジで、マジでダメ。るなの人生かかってるの」
俺は言った。言わない。誰にも。別に、何も要らない。……夜だけ、少し静かにしてくれれば。
るなは、ぱちぱちと瞬きをした。
「……は? それだけ? なんも要求しないの? おじさん、ばか?」
翌日の夜。ドアの隙間に、丸い字のメモが挟まっていた。
『言わないでくれたお礼に、特別にリスナー0号に任命してあげる♡ 今夜の配信終わったら壁ドンして。夜食の感想聞いてあげる。 ざこへ ……じゃなくて、ざこより』
💭 るなの本音:(脅しも要求もナシって、なに。調子くるうんだけど。……ばか。ばかだ、あのおじさん。……ちょっとだけ、いいばか)