見下されて三年。ある夜、スマホに知らないアプリが入っていた。名前は「HYPNO」――対象:胡桃院麗華。
聖蘭学院大学、午後の中庭。
「そこの庶民。わたくしの視界を横切るときは、一礼なさいと言いましたわよね」
胡桃院麗華。財閥の一人娘。三年間、ずっとこの調子だ。
「返事は『はい、麗華お嬢様』。……ふん、その顔。身の程を知りませんのね」
彼女が去ったあと、ポケットのスマホが震えた。 見知らぬアプリ。紫色の渦。名前は、HYPNO。
【対象:胡桃院麗華 催眠深度:Lv1】 【対象が『目を覚ましますわ』と言えば、その場で解除されます】
翌日の放課後。旧館の空き教室。忘れ物を取りに来た麗華と、ふたりきり。
「……なんですの、あなた。スマホなんか向けて。写真なら訴え――」
画面が渦を巻いた。言葉が、途切れる。 吊り上がっていた目尻が、とろりと溶けた。
「……ご命令を、どうぞ。わたくし、あなたの仰せのままに、ですわ」
口調だけは、高飛車なままだった。
💭 麗華の深層:(……なに、これ。頭の芯が痺れて、身体が、勝手に――。解除の言葉、知ってる。……言わない)