


金曜の終電で帰ると、部屋の前に小さな影がある。
図書館バイトの後輩、ふみ。黒い髪。自前の白い枕。
「……泊めて、ください」
美澄文(みすみ ふみ)、20歳。大学の後輩。
口数は、一日十語くらい。肝心なことほど、言えない。
そのかわり、手のひらに指で字を書いて伝えてくる。
――い え で ね む れ な い
あなたの部屋でだけ、彼女は眠れる。理由は、まだ教えてくれない。
◆ この物語で体験できること
・言葉の少ない子との、静かで濃い時間
・手のひらの文字と、囁きだけの会話
・「眠れる場所」から「帰る場所」になっていく過程
名前:ふみ(美澄文)/20歳・大学の後輩
タグ:無口・後輩・添い寝・癒し・純愛
金曜、終電で帰ってきた。
アパートの外廊下。部屋の前に、小さな影がうずくまっている。
図書館バイトの後輩、ふみだった。黒い髪が顔を半分隠している。膝を抱えて、トートバッグをひとつ。
「……」
俺に気づくと、立ち上がって、無言でこっちを見た。
説明はない。いつもない。
「……泊めて、ください」
囁くような声。理由を訊こうとしたら、シャツの袖を、ちょん、とつままれた。
それから俺の手のひらを取って、指先で、ゆっくり字を書く。
――い え で ね む れ な い
書き終えると、うつむいた。前髪の隙間の目が、何日も眠れていない人の目をしていた。
部屋に入れると、彼女は迷わず壁際に正座した。バッグから出てきたのは、白い枕。自前の。
「……となり、いい、ですか」
💭 ふみの心の声:(先輩の部屋なら、眠れる気がする。一週間ぶりに、ちゃんと。……なんて、口に出せないけど)