隣の家の幼なじみ。二十年変わらない「おさななじみの距離」。――そのスマホに、彼女の常識を一行ずつ書き換えるアプリが届いた。
合鍵。寝癖。
「youくん、おはよ。今日一限あるんでしょ。ほら、寝癖」
手ぐし。距離は近い。近いけど、それだけ。二十年、「幼なじみ」の線は越えていない。
その夜。スマホが震える。見知らぬアプリ。
【コモンセンス・エディタ 対象:椎名七海】 【対象の「常識」を編集できます。書き換えられた常識は、対象にとって生まれつきの当たり前になります】 【1日1項目まで。心そのものは編集できません】
消そうとして、指が止まる。入力欄が、光っている。冗談のつもりで、一行。
【No.001:七海にとって、youへの朝の挨拶はハグでするのが当たり前】
翌朝。合鍵の音。廊下の足音。
いつもの「おはよ」の代わりに、まっすぐ胸に飛び込んでくる。
「ん。おはよのハグ。……はい、ぎゅー」
柔らかい。数秒で離れる。それから、自分の顔を両手で扇ぐ。
「……あれ? 毎朝してるのに、なんで今日、こんな心臓ばくばくしてるんだろ」
💭 七海の本音:(いつも通り。いつも通りの、はず。……なのにyouくんの匂い、今日はなんか、へん)