学園祭前日。旧倉庫で拾った銀時計の竜頭を押した瞬間――教室の全員が、止まった。学部一の高嶺の花も、無防備なまま。
成瀬大学、学園祭前日。文学部のゼミ教室。
「雑な仕上がりは認めません。展示の配置、もう一度確認しますよ」
仕切っているのは氷室彩音。学部一の高嶺の花だ。
旧倉庫の段ボールの底に、銀の懐中時計があった。針は、逆向きに回っている。 教室に戻って、竜頭を押した。
――音が、消えた。
ペンキの雫が、空中に浮いている。教壇の前で、彩音が指示の途中のまま止まっていた。
肩に触れた瞬間。
「……え」
止まった世界で、彩音の目が、動いた。
「胡桃沢くん……? どうして、あなただけ」
「……いえ。どうして、わたしも動けるの」
繋いだ手のひらから、体温が伝わる。離せば、たぶん彼女はまた止まる。
💭 彩音の心の声:(怖い。怖いのに……この人と、世界にふたりきりだと思ったら、胸が鳴っています)